数日後、冬雅は父親が火事になった雑居ビルの一室で焼死体として発見された、と知らされた。ビル周辺の状況からすると、行方不明になってからずっとそこにいたらしい。
火の勢いが激しく、室内のものはほとんど燃えてしまったため出火原因ははっきりしなかった。そして、どうしてそんなところに父親がいたのかも解明されそうになかった。
葬儀を始めとした諸々の手続きを終えたあと、冬雅は残った実家や両親の残したもの、自分の幼い頃から少し前までの「思い出の品々」をどうするか考えたが、結局すべて処分することにした。
独りになってしまって自棄になっているのかと周囲には散々尋ねられた。しかし自分でもどうしてそういう心境になったのかわからなかった。ただ「どうしてもそうしなければいけない」という焦燥感が常にあった。それに不安を覚え、病院で診察を受けてみたりもしたが、相次ぐ両親の死という大きな出来事があったせいでショックを受けているためだ、というようなありきたりなことを告げられるばかりだった。
それから、型通りの、端から見れば平穏な生活を淡々と送っているというのに、理由のない焦燥感は残り続けた。
数ヶ月はそれに耐え続けていたが、日が落ちるのが早くなり寒くなってきたころには夜になると熱が出るようになった。精神の疲弊に肉体が耐えかねたかのようだった。
いくつか病院を回ってみたが原因はわからず、職場からは休職を勧められた。
――休んだところで治るものなのか……?原因もわからないのに
熱く怠い体を湿気ったベッドに投げ出しつつ冬雅は思った。枕に沈めた顔の真横に、ヘッドボードから何かが転がり落ちる。
あの赤い手帳だ。
いつの間に忘れていたんだろう、とぼんやり考える。忘れていた、というか、手帳自身がこちらの意識の中から「出ていった」、という感じだ。
今となっては、自分の体内の血脈以外で唯一母につながるものだな、と思いつつ手にとる。
母のこともザリャのことも、父の死をきっかけにとても遠いところに行ってしまったような感覚があった。それでも脳裏に焼き付くほど見つめ、そして実際触れた姿をもう一度目にすると、夜毎ひどく焦がれていた時と同じ感情がふつふつと沸き上がった。
――ザリャ、俺はこのまま熱にやられて死ぬ。そういう気がする……
そんなことを思いつつ、浅い眠りに意識が溶けていく。
火の勢いが激しく、室内のものはほとんど燃えてしまったため出火原因ははっきりしなかった。そして、どうしてそんなところに父親がいたのかも解明されそうになかった。
葬儀を始めとした諸々の手続きを終えたあと、冬雅は残った実家や両親の残したもの、自分の幼い頃から少し前までの「思い出の品々」をどうするか考えたが、結局すべて処分することにした。
独りになってしまって自棄になっているのかと周囲には散々尋ねられた。しかし自分でもどうしてそういう心境になったのかわからなかった。ただ「どうしてもそうしなければいけない」という焦燥感が常にあった。それに不安を覚え、病院で診察を受けてみたりもしたが、相次ぐ両親の死という大きな出来事があったせいでショックを受けているためだ、というようなありきたりなことを告げられるばかりだった。
それから、型通りの、端から見れば平穏な生活を淡々と送っているというのに、理由のない焦燥感は残り続けた。
数ヶ月はそれに耐え続けていたが、日が落ちるのが早くなり寒くなってきたころには夜になると熱が出るようになった。精神の疲弊に肉体が耐えかねたかのようだった。
いくつか病院を回ってみたが原因はわからず、職場からは休職を勧められた。
――休んだところで治るものなのか……?原因もわからないのに
熱く怠い体を湿気ったベッドに投げ出しつつ冬雅は思った。枕に沈めた顔の真横に、ヘッドボードから何かが転がり落ちる。
あの赤い手帳だ。
いつの間に忘れていたんだろう、とぼんやり考える。忘れていた、というか、手帳自身がこちらの意識の中から「出ていった」、という感じだ。
今となっては、自分の体内の血脈以外で唯一母につながるものだな、と思いつつ手にとる。
母のこともザリャのことも、父の死をきっかけにとても遠いところに行ってしまったような感覚があった。それでも脳裏に焼き付くほど見つめ、そして実際触れた姿をもう一度目にすると、夜毎ひどく焦がれていた時と同じ感情がふつふつと沸き上がった。
――ザリャ、俺はこのまま熱にやられて死ぬ。そういう気がする……
そんなことを思いつつ、浅い眠りに意識が溶けていく。