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2025-07-25 18:01:43
9.海とライン
陽太はたそがれの海辺をゆっくり歩いていた。たそがれ、と言っても、辺りはまだ暗くなっていない。水平線の少し上で太陽は白く光っている。その光を受けて、波打つ海も仄白く輝いている。 陽太はその光景を見て瑞
2025-07-25 17:59:26
8.梅雨闇
明るい空から雨が降り続いている。白い雨だ。 ――たしか、もうすぐ昼と夜が同じ長さになるんだっけ まだ明るい空の下、職場を出て家へ向かいながら瑞希はふとそんなことを思った。昼と夜が同じ長さに鳴る夏至が
2025-07-25 17:58:50
7.海の家
まるで水の中にいるような湿った空気の重たさを感じつつ、瑞希は自宅と職場以外の場所にいくのは久しぶりだと思った。足元の砂浜は黒っぽく湿っていて、先を行く陽太の足跡がまっすぐ海の家に続いている。不安定な曇
2025-07-25 17:55:37
6.2つの篝火
車で迎えに来た母親に連れられていく陽太を見送り、瑞希は陽太の母親からなかば押し付けるように渡された、お菓子やジュースのペットボトルが入ったビニール袋の重さを温かく感じた。そして、その温かさや重たさに陽
2025-07-25 17:54:56
5.通り雨のなかで
瑞希の家は海から10分ほどのところだった。 木造の古いアパートで、1階と2階合わせて8軒ほどの居室があるが、人が住んでいるのは3軒ほどのようである。建物の古さとひとけの無さ、それに雨が降っているのも
2025-07-25 17:50:47
4.遠雷
あの男に「描いてくれ」と言われて以来、絵が描けなくなった。 何気なく線を引くたび、彼の下卑た笑いを思い出してしまう。そして、誰からも見捨てられて孤独で、他者とつながりたいがために肉体を差し出しさえす
2025-07-25 17:48:35
3.交差する線
陽太は来たときと同じように宵闇の浜辺を走って帰宅し、もっと時間に気をつけて走りなさいよ、などと母親に文句を言われつつ風呂へ直行した。 そろそろ切らないとかな、などと思いつつ、くしゃくしゃな髪を雑に拭
2025-07-25 17:47:56
2.瑞希
暗くなりつつある浜辺を疾走していく陽太をぼんやり見送りながら、瑞希は「大南風(おおみなみ)」という言葉を思い出していた。夏の湿った激しい季節風のことだ。 ――暑苦しくてうるさいヤツ…… そう思いつつ
2025-07-25 17:46:54
1.陽太
陽太(はるた)はたそがれの波打ち際を走っていた。 最初は、中1のころから高3の今まで続けている、陸上部の練習の延長としてはじめたことだった。今は温かな潮風と、夕暮れの金色の光の中を走ることそのもの、
2025-05-17 12:34:10
「火焔」メモ(あとがき)
今回の小説を書いた経緯 マストドンのフォロワーさんが「母の愛人に惹かれていた青年が、母の死後その愛人と交接する」という設定の話を誰か書いてくれ〜、と投稿していて、 そういう投稿を見かけて気になったら空
2025-05-17 12:30:19
9.新しい街
築年数は古かったが、新居はやはり新居の匂いがした。 少ない荷物を片付けて窓を開けると、青々とした木々が茂るおだやかな住宅地が広がり、その先に霞んだ海がうっすらと見える。吹き込んでくる温かな風にも、ど
2025-05-13 23:14:22
8.業火
名前を呼ばれた気がした。 ぼんやりした意識の中の、立ち籠めた煙のような闇の向こう側に誰かがいる。 ――冬雅、哀れな小さな蛾よ。おまえは火に焼かれている、おまえの父が負った呪いの火に 聞き覚えのある柔
2025-05-13 22:20:14
7.喪失
数日後、冬雅は父親が火事になった雑居ビルの一室で焼死体として発見された、と知らされた。ビル周辺の状況からすると、行方不明になってからずっとそこにいたらしい。 火の勢いが激しく、室内のものはほとんど燃
2025-05-13 22:10:12
6.岐路
何かに願ったわけではないが、今日は早く仕事が終わり、定時で帰宅することになった。 帰り支度を整えながら冬雅はひそかに母の手帳の今日の日付を開いた。何度も見た例のメモと、あの男の写真をもう一度見つめる
2025-05-13 22:04:43
5.火の目
ひたすら自分を追い続ける視線がある。 姿は見えない。ただ、どこかからじっと観察されている。というか、粘りつくような熱を持ってじっと「見られている」のがわかる。悪霊や呪いとは違う、あきらかに人間の視線
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